~毎月1回お届けする相続に関するエッセイ風コラム~

 

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目次
(2022年5月) 石原慎太郎氏の複雑な相続問題
(2022年4月) 戸籍とは、何のためにある?
(2022年3月) 末子相続という考え方
(2022年2月) 相撲部屋と年寄名跡の相続
(2022年1月) 印鑑の歴史と電子印鑑について
 
(2021年12月~1月) 目次
(2020年12月~1月) 目次
(2019年12月~1月) 目次
(2018年12月~1月) 目次
 

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【2022年5月】
石原慎太郎氏の複雑な相続問題
 
作家であり政治家でもあった石原新太郎氏が、コロナ禍の最中の今年2月に89才で亡くなりました。1956(昭和31)年小説『太陽の季節』で芥川賞を受賞。その後1968(昭和43)年参院選にトップ当選し環境庁長官、運輸大臣を歴任、さらに東京都知事を務めた後、日本維新の会代表にも就任しています。
多くの著書があり、ミリオンセラーの『「NO」と言える日本』や石原裕次郎を題材にした『弟』が話題となり、「文藝春秋」に投稿した『死への道程』が絶筆となりました。生前は豪快な発言で何かと注目されていましたが、遺言には「大きな葬式や戒名は不要。遺骨は海に散らせ」と記されており、また密葬で流す曲は「海よさらば」に決めていたとのことです。

田園調布にある豪邸は土地の評価額だけでも約3億円、また過去に手放した逗子の別荘も同じく約3億円と推測され、その遺産総額は10億円ほどと言われます。亡くなった時には妻典子さんと、長男伸晃氏、次男良純氏、三男宏高氏、四男延啓氏の4人の子息がいましたが、典子さんは慎太郎氏の後を追うかのようにわずか1ヵ月後の3月にこの世を去りました。一次相続に続き、配偶者の二次相続も発生してしまったのです。
遺産分割協議が決着しないうちに、立て続けに相続が始まることを「数次相続」と言います。自宅は典子さんとの共有名義だったらしく、手続きはかなり複雑になります。いくつかの条件に当てはまれば中間の登記を省略する「中間省略登記」も可能ですが、原則としてはまず一次相続の相続登記(不動産の名義変更)をし、次に二次相続の登記をすることになります。

 
太陽の季節
 
さらに問題を複雑にしているのが、認知していた婚外子である五男の存在です。1980年代に銀座の高級クラブに勤めていた女性との間に生まれ、94(平成6)年に認知しています。成人するまで毎月20万円を養育費として支払っていたとのことです。男性は幼少期を東京で過ごし、母親の出身地新潟に転居した後再び上京し、大学卒業後は都内で働いていたようですが、慎太郎氏とは金銭的支援以外ほとんど交流はありませんでした。それでも法的には親子関係にあり、相続する権利は他の兄弟と同等ですから、遺産分割協議の場に参加できます。

いずれにしても相続財産に大きな不動産が含まれると、途端に分割協議が難しくなります。不動産は簡単に分割するわけにいきませんし、そこに住み続けたい相続人がいる場合はすぐ現金で受け取りたい相続人と意見が対立することになります。不動産を相続する人が「代償分割」により他の相続人の受け取り分を金銭で支払う方法もありますが、多額の現金が必要になるのでそれほど簡単ではありません。相続人は長期にわたって固定資産税が課されるという別の問題もあります。
共有名義にするという考え方もありますが、将来その不動産を売却する時に共有者全員の同意が必要となり、また相続人が亡くなればさらにその相続人が分割相続して所有権が細分化するおそれがあります。そうなると後々さまざまな不都合が起こる可能性もあります。
このようにいろいろ複雑な問題を抱えている石原家の相続ですが、はたしてどのような決着となるのか、その行方に関心が集まるところです。

 

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【2022年4月】
戸籍とは、何のためにある?
 
ふだんはあまり気にしていませんが、婚姻、出生、死亡などの出来事が起こると私たちは戸籍というものを意識します。また相続が発生すると、相続人を確定するために被相続人の戸籍を調べることが必要になります。この身分証明のような戸籍というものは、そもそもどのような目的で作られたものなのでしょうか。
簡単に言うと、戸籍とは国民一人一人を出生や婚姻関係などによって家族単位で登録する制度のことです。もともとは徴税や徴兵のために設けられたものですが、戦後の民法改正に伴う戸籍法改正によりその目的は大きく変わりました。

現在は、氏名、出生(親と生年月日)、婚姻・離婚(配偶者)、養子縁組、国籍離脱などの法的な身分関係を示すものとなっていて、旅券(パスポート)の発行や親族関係の証明手段として相続手続きなどに利用されています。
戸籍には土地の地番や街区符号を利用してつけられる「本籍」と呼ばれる見出しのようなものがあり、これは戸籍の初めに書かれる「筆頭者」が婚姻届などの際にどこにするか決めることができます。主として住所と同じにする場合と、親の「本籍」と同じにする場合の二つがあります。

また「筆頭者」については、それぞれ次の人が該当します。
〈未婚の場合〉「筆頭者」は父母のいずれかで、本人はその戸籍に長男、長女などの続き柄で入っています。
〈結婚した場合〉姓を名乗った方の夫または妻が、新しい戸籍の「筆頭者」となります。
〈離婚した場合〉婚姻時の「筆頭者」はそのまま戸籍に残り、そうでない人は未婚の場合のように親の戸籍に戻る(転籍)か、新しく「筆頭者」となり戸籍を作ります(分籍)。

 
末子相続
 
その人の戸籍には出生から死亡までの履歴が記録され、住民基本台帳と合わせて戸籍の附票を閲覧すれば転居の履歴が判明します。また市町村名まで記載された出生地は移記すべき事項と定められていますから、本人であることが確認できます。
さらに転籍したり分籍した後の戸籍にも記載されますので、相続手続きの際にも利用できるようになっています。

ただし婚姻や分籍などにより新戸籍が作られると、婚姻や相続の際に一つの戸籍だけでなくいくつも遡って戸籍を調べないと婚姻歴や子供の有無が分からないことがあり、不便な面もあります。この問題についてはマイナンバー制度の活用によって、将来的には解決される可能性もあります。
また現在は外国人(外国籍者)と結婚しない限り夫婦別姓ができず、夫婦のいずれかは結婚前の苗字が戸籍にならないため、近年は選択的夫婦別姓を望む声も増加しつつあります。
こうした点については今後の進展に注目したいところです。

 

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【2022年3月】
末子相続という考え方
 
コロナ禍もあって子供の出生数はますます減少し、厚労省の発表では昨年は過去最少の84万人でした。一人っ子では長子(ちょうし)も末子(まっし)も関係ありませんが、今月は末子相続について取り上げてみたいと思います。
これはいわゆる長子相続ではなく、最後に生まれた子供(末子)が財産を相続するという意味です。えっそんなことがあるの?と疑問に思われるかもしれませんが、実は意外にあちこちで見られます。

日本では戦後新しい民法が制定されて子供はみな平等となり、長子や末子の差別はなくなりましたが、以前は大日本帝国憲法の下で家父長制による長子(男)相続が一般的でした。
しかし例えば先月取り上げた相撲部屋の相続では、親方が高齢になって引退する時に弟子の一人を後継者として指名し、年寄名跡を無償で譲り渡すのが一般的です。その際、古い弟子はすでに独立して部屋を興したりしているため、その時点での部屋付き力士に継がせることになります。これは家族の相続とは違いますが、ある意味で一つの末子相続の形と言えます。

またモンゴルの遊牧民社会でも、似たような例があります。子供は成人すると親から家畜など財産の一部を分与されて独立しますが、末子だけは最後まで独立せず、親が死ぬとその財産を相続します。
先に独立する子供は親の財産のごく一部を相続し、最終的に末子が残った財産の大部分を相続するわけです。家畜という財産分割の容易な遊牧民に見られる相続形態と言えます。
子供が何人もいるうちに親が死んだ場合は最年長の子供が財産を相続するケースもあるようですが、その場合でも末子は将来的に母親の財産を相続するなどそれなりに重んじられました。遺産を相続する末子を、神聖な家の炉の火を守り継承する「火の王子(炉の番人)」を意味する「オッチギン」と呼んでいました。チンギス・ハーンの末の弟であるテムゲ・オッチギンなどが有名です。

 
末子相続
 
その他、日本では近畿、瀬戸内、九州などの一部漁村でそのような例が見られます。漁村では水田や畑などの土地がなく財産分与の問題が生じにくいことや、子供が労働年齢に達すれば直ちに漁に出るため生命の危険が高く、末子に継がせる方が安全との理由からです。
また長野県諏訪地方では、江戸時代後半から戦前まで末子相続が見られました。長男次男が江戸に奉公や出稼ぎに出かけ、末子(男性)が田畑を相続し両親を助けました。田畑の生産力が低かったことや耕地の細分化が進んだため、こうした風習が成立したと考えられます。これらは形を変えてその後も続き、長男や次男は都市の大学に進学や就職し、末子が地元に残りました。このことが長子相続と家父長制を規定する大日本帝国憲法下の民法に抵触したため、訴訟になることもあったようです。

このように見てくると、末子相続というのは親の遺産を子供たちができるだけうまく引き継げるように、それなりに合理的な考え方にもとづいて行われてきたことがわかります。
いずれにしても今は出生の順番も男女の性別も関係なく、子供はみな平等の世の中です。これはある意味で、大変ありがたいことだと思わざるをえません。

 

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【2022年2月】
相撲部屋と年寄名跡の相続
 
先日終った大相撲初場所で関脇御嶽海が千秋楽に照ノ富士を破って3回目の優勝をし、大関への昇進が決まりました。御嶽海は平成4年長野県生まれで、母親がフィリピン人であることもよく知られています。当相談所にそのサイン色紙が飾られていることもあり、今回は相撲部屋の相続についてふれてみます。
相撲部屋というのも一つの事業のようなものですが、企業と違うのは親方とお女将さんが弟子たちと共同生活を送りながら力士を育てていることです。そして親方が高齢になって引退する時は、後継者として有望な弟子や自分の娘婿に年寄名跡(みょうせき)という年寄株または親方株を無償で譲渡する世襲制になっています。

この年寄名跡は部屋を継いだり、引退後も相撲協会から収入を得て協会運営に関与できるなど、大変価値のあるものです。それを得る条件としては、日本国籍を有し最高位が小結以上か幕内在位通算20場所以上または十両以上在位通算30場所以上のいずれかが必要ですが、その数は105に限定されています。
そのため年寄名跡を得るには親方が退職する際に譲渡してもらうか、あるいは他に親方の空きが出るまで待つしかありませんでした。(例外として大鵬・千代の富士・北の湖・貴乃花など現役時代に横綱として顕著な功績を上げた力士は、特別に「一代親方」となれる場合もあります)

 
御嶽海色紙
 
その年寄名跡がいつしかしだいに売買されるようになり、もともと数が少なく価格が定められていないことから、一時は億円単位にまで高騰しました。このため力士の中には早い時期から給与を貯金したり、購入費用が貯まるまでなかなか引退できないケースも増えてきました。
また亡くなった二子山親方がかつて兄の初代若乃花から年寄名跡を譲渡してもらうため後援会から3億円受取り、東京国税局から申告漏れを指摘されたり、先代の立浪親方(元関脇羽黒山)から現在の立浪親方(元小結旭豊)に対し、年寄名跡の譲渡代金1億7500万円が請求され裁判で争われた例もあります。

このように年寄名跡は明らかに価値があり、取引実績もあるため、本来は課税対象となるはずです。しかし国税庁の個別通達「力士等に対する課税について」には「給与所得」と明記されているだけで、売買等に係る課税の規定は見当たりません。これは協会が年寄名跡の移動は売買ではなく「無償の贈与と生活費の前渡し」としている点も影響しているようです。
協会が2014年に公益法人に移行した時、年寄名跡は協会が管理することと、名跡の襲名や推薦に関して金銭等の授受を禁止しています。しかし協会への申告を条件に「指導料」を支払うことは可能なため、実質的には金銭等の授受は認められているとも言えます。
どうも土俵上の勝負のように、簡単に白黒をはっきりつけるわけには行かないようです。

 

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【2022年1月】
印鑑の歴史と電子印鑑について
 
新年を迎えましたが、新型コロナはオミクロン株による第6波でなかなか終息しません。さて今回は相続手続きにも深い関わりのある印鑑の話です。
昨年9月わが国にもようやくデジタル庁が発足し、本格的なデジタル社会に向けた動きがスタートしました。その狙いは国や地方行政のIT化やDX(デジタルトランスフォーメーション=デジタルによる社会変革)の推進を目的としたもので、総務省と連携してマイナンバーカードを普及させ公共情報サービスのシステム化を図る狙いもあります。私たち司法書士と関係の深い法務局などにおいても、現在さまざまな部署でこうした動きが進行中です。

それと平行して、国や地方行政においていろいろな書類の閲覧や承認に印鑑を押す習慣を廃止する動きもあります。情報のデジタル化によって押印の手間を省き、紙の書類をできるだけ少なくして業務の効率化とスピード化を図る狙いです。そのため印鑑が不要になるのではないかとの危機感から、印鑑の製造や流通に携わる組合や業界から印鑑の良さをもう一度見直そうとの声も上がっています。

この印鑑は、もともと古代メソポタミア地方で発祥し、東は中国、西はギリシアやエジプトなどを経て日本や欧州に伝わりました。日本では北九州で発見された「漢倭奴国王」の金印が最古で、平安や鎌倉時代になると個人の印として定着していきました。わが国の印鑑はハンコ(判子)とも呼ばれ、大名や僧侶たちが「花押」(かおう)という独自の様式化された書体で自署するようになり、一つの文化として定着しました。
明治になって印鑑登録制度が導入され、字の書けない庶民でも印鑑登録した実印があれば本人証明ができ、大いに普及しました。しかし欧州などでは印鑑の習慣はほとんど残らず、中国でもごく一部で使われているだけです。

 
電子印鑑
 
ところで最近は電子印鑑という言葉をよく聞きますが、それはどのようなものなのでしょうか。簡単に言えば電子印鑑とはパソコン上の文書に印鑑を押印できるようにしたもので、紙に印鑑を押すのと同じようにWordやPDFなどで作成したデータに直接押印できます。
それで普通の印鑑と同じ効力があるのでしょうか。これについてはそもそも印鑑の役割は実印を除いては書類の内容に対し確認または承認したとの意思を示すことにあるため、その法的効力に特に違いはありません。電子印鑑も認印程度の効力しかなく、重要な契約はやはり紙の書類への押印が基本と言えます。

とはいえ法人税の電子申告が義務化されたことにより、資本金1億円超の大企業はオンラインで税申告しなければならず、会社実印が必要になることも考えられるため、今後は電子印鑑がないと不便かもしれません。
電子印鑑はパソコンさえあればフリーソフトなどで簡単に作成できますが、印影の複製や改ざんが容易というセキュリティ面の心配があります。こうしたセキュリティ面の課題が解決されれば、今後さらに普及することも考えられます。(それを防ぐため印影にシリアル番号や使用者情報などのデータを保存できるものもあります)
皆様もご自分で個人のユニークな電子印鑑を作成してみてはいかがですか。

 

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