相続よもやま話〈2026年〉
~毎月1回お届けする相続に関する楽しいイラスト付きエッセイ風コラム~
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目次
(2026年1月) 池井戸潤の『かばん屋の相続』
(2025年12月) ペットの「終活」も忘れずに
(2025年11月) 土地の詐欺を狙う「地面師」
(2025年10月) 法律を陰で支える「公証役場」
(2025年9月) 都市と農村で戸籍が違う中国
(2025年8月) お盆と「死後離婚」の話
(2025年7月) 複雑な長嶋家の相続問題
(2025年6月) 相続税はどれくらい?
(2025年5月) 相続したくない財産
(2025年4月) 中小企業の事業承継
(2025年3月) 神戸市の『樹林墓地』計画
(2025年2月) 国籍と夫婦別姓問題について
(2025年12月~1月) 目次
(2024年12月~1月) 目次
(2023年12月~1月) 目次
(2022年12月~1月) 目次
(2021年12月~1月) 目次
(2020年12月~1月) 目次
(2019年12月~1月) 目次
(2018年12月~1月) 目次
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【2026年1月】
池井戸潤の『かばん屋の相続』
新年に当たり、相続にまつわる最近の話題作『かばん屋の相続』を取り上げてみたいと思います。作者はあの直木賞受賞作の『下町ロケット』などで有名な池井戸潤です。
作者の簡単な略歴をご紹介しますと、1963年岐阜県生まれで子供の頃から図書館でミステリーを読み漁っていました。そして慶応義塾大学文学部および法学部卒業後、1988年三菱銀行(当時)に入社。1995年32歳の時に退社し、コンサルタント業のかたわらビジネス書の執筆や税理士・会計士のソフト監修などを手がけます。しかし将来に不安を感じ、夢だったミステリー作家の道を目指します。
そして元銀行員の経験を生かし1998年『果つる底なき』で見事に第44回江戸川乱歩賞を受賞し、作家としてデビュー。その後2010年『鉄の骨』で第31回吉川英治文学新人賞を、2011年中小企業を舞台にした『下町ロケット』で第145回直木賞受賞を果たします。
その他に銀行を舞台にした半沢直樹シリーズ(『オレたちバブル入行組』など)や花咲舞シリーズ(『不祥事』など)のほか、弱小企業野球部の救済を描いた『ルーズヴェルト・ゲーム』、企業の不正を描いた『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』、また政治と若者の就職難をテーマにした『民王』など、幅広いジャンルのエンタメ作品を数多く執筆していることで知られます。

その池井戸潤がこのたび文春文庫として刊行したのが、働く男たちの愛憎や葛藤を描いたオリジナル短編集『かばん屋の相続』。表題作である『かばん屋の相続』は、実際の企業で起こった遺言書偽造事件に着想を得た作品です。
池上信用金庫に勤める主人公の小倉太郎。その融資先として長年つきあってきた「松田かばん」の松田義文社長が急逝し、二人の兄弟が残されます。会社を専務として手伝っていた次男均に対し、父の生前に「相続を放棄しろ」と迫り、「会社の株全てを大手白水銀行に支店長として勤めていた長男亮に譲る」と書かれていた怪しい遺言書を片手に乗り込んできた長男。それに対し何も文句を言わず黙って店を明け渡そうとする次男。乗り込んできた長男と対峙する小倉太郎。果たして父の思いはどこにあったのか? といったあらすじです。
表題作の他に『十年目のクリスマス』『芥のごとく』『セールストーク』『手形の行方』『妻の元カレ』と、ミステリー要素が強いものや銀行員の私生活に焦点を当てたものなど五編が収録されています。
池井戸作品の主人公は、多くの場合において企業の利益を優先する上司や役員に対し自らの正義との間で苦悩します。本作においても『かばん屋の相続』や『十年目のクリスマス』『芥のごとく』で、彼らはその二者択一に悩み苦しみます。企業人としてならば答えは初めから決まっているのですが、単純にそうと決められないのが人情であり、そこに読者は心動かされるのです。
もちろん現実はそれほど甘くはなく、正義を貫いた者が必ずしも幸せになれるわけではありません。そうと知ってはいても、池井戸作品の主人公たちには正義を貫いてほしい。おそらく多くの読者が、そう願っているのではないでしょうか。
今年もまたその作品に大いに期待したいところです。











