相続よもやま話〈2023年〉
~毎月1回お届けする相続に関するエッセイ風コラム~
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目次
(2023年6月) 認知症に備えるために
(2023年5月) 子育てのセーフティネット
(2023年4月) 特別な「寄与」と「受益」の話
(2023年3月) 離婚の増加と共同親権について
(2023年2月) 戸籍をたどる方法とは
(2023年1月) お墓の承継について考える
(2022年12月~1月) 目次
(2021年12月~1月) 目次
(2020年12月~1月) 目次
(2019年12月~1月) 目次
(2018年12月~1月) 目次
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【2023年6月】
認知症に備えるために
わが国は今、人口が減少する一方で高齢化が急速に進んでいます。総務省の発表では2022年10月時点で65歳以上の高齢化率は29%に達しており、2050年には37%になると予測されています。それと並行して認知症の人が増え、2年後の2025年には約700万人と65歳以上の5人に1人が認知症になると見込まれています。
確かに最近はご近所さんなどを見ても、そうした方が決して珍しくはないことを実感するようになりました。こうした認知症になると、当然ながらさまざまな困った問題が発生します。記憶が曖昧になり物が覚えられなくなったり、簡単な計算や判断ができなくなったりします。
その結果いろいろなトラブルや詐欺などに巻き込まれやすくなります。生活資金の面でも、預貯金口座の解約や引き出しができなかったり、不動産や証券の売買、保険の解約や受取り請求ができなくなります。また介護費用を家族が負担する場合は、生活が圧迫されることになります。
さらに相続においても遺言書の効力をめぐって争いが起きたり、さまざまな相続手続きができなくなります。これは被相続人だけでなく相続人が認知症となった場合も、遺産分割協議ができなくなるなど同じ問題が起こります。
ところで法律的な行為(契約)において、認知症はどのように判断されることになるのでしょうか。一般的に契約は双方の意思の合致によって成立しますが、それを有効に締結するには「意思能力」と「行為能力」の2つが必要とされます。「意思能力」はその行為の結果を判断できる能力で、これを欠く人の契約は無効とされます。認知症の人は、民法上「意思能力」のない者として扱われます。
また「行為能力」は単独で有効な契約を行なうために必要な能力で、その能力に欠けた人の契約は取り消すことができます。この「行為能力」が制限された人は「制限行為能力者」とされ、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人などがこれにあたります。
その能力を補う者として成年後見人や保佐人、補助人等が定められています。すでに認知症となった場合は、こうした人にサポートしてもらうことになります。
一方で認知症になる前であれば、「任意後見制度」や「家族信託」の活用といった方法があります。「任意後見制度」とは将来自分の判断能力が不十分になった時に備えて、後見人を依頼し、その内容を契約(公正証書)で決めておく制度です。
また「家族信託」も認知症になった場合に備え、ご自身の財産の管理を親族など信頼できる人に任せておく制度です。
元気なうちに将来のことを家族などで話し合い、必要な手続きをしておくことをぜひお勧めいたします。
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【2023年5月】
子育てのセーフティネット
相続と直接の関連はないのですが、現在わが国は前列のない少子高齢化の時代を迎えています。国交省の発表によれば2050年の人口予測は9,515万人と、今より約3,300万人(約25%)も減少します。しかも65歳以上の高齢者は1,200万人増加して3,764万人で、その比率は20%から40%に増え、逆に15~64歳の生産年齢人口は3,500万人減少して4,930万人で比率は約50%ほど。ですから一人の労働者がほぼ一人の高齢者を支えて行かなければなりません。
27年後というのは例えば38才の人がちょうど65歳の高齢者になる頃で、そんなに遠い将来の話ではなくすぐそこの現実と言えます。これらはすべて生れて来る子供が少ないことに起因しています。
さすがに政府がようやく異次元の少子化対策を打ち出しましたが、あまりに遅過ぎますしうまく行く保証もありません。バブル後の90年代頃からもっと真剣に取り組む必要があったのですが、30年以上先延ばしされ今に至っています。わが国は安心して子供を生める社会になっておらず、結婚したり子供を生むことが将来の大きなリスクになっているのが現状です。
言い換えると私たちの社会が目先の生活だけを重視して、この30年余り子供のことを大事に考えて来なかったツケがいま回って来ているのだと言えましょう。
子供を安心して生むためには、結婚しているいないに関わらず経済的困窮など様々な理由により親の子育てが困難になった時に、社会がその受け皿としてセーフティネットを用意しておくことが重要でしょう。わが国ではそのため、児童養護施設の他に里親や「ファミリーホーム」の制度があります。
親と暮らせない子供は現在全国で約4万2000人いると言われますが、里親または「ファミリーホーム」に委託されている子供の割合は全国平均で約22.8%(令和2年度)で、就学前目標の75%以上や学童期以降目標の50%以上にはまったく達していません。
里親は実親の元にいられない子供を育てるもので、養子縁組と違って親子関係(親権)はありません。2016年の児童福祉法改正により家庭的な環境での養育を重視する方針が示されましたが、里親への委託は思うように進んでいないのが実状です。
また「ファミリーホーム」は厚労省が定めた「小規模住居型児童養育事業」を行うもので、経験豊かな養育者が家庭で5~6人の子供を預かり、将来自立した生活を営むために必要な知識及び経験を付与することを目的とする制度です。令和3年時点で全国に427ヶ所あり、委託児童数は1,688人で、将来的には全国1,000か所を目標としています。
このような里親や「ファミリーホーム」を活用して子育てを側面から支え、少子化対策の一つとして大いに役立ててほしいものです。
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【2023年4月】
特別な「寄与」と「受益」の話
相続に関する言葉は何かと難しいものが多いのですが、「特別寄与」と「特別受益」などもその一つでしょう。どちらも同じように「特別」が付いていますが、「寄与」と「受益」は正反対の言葉なので、意味もあべこべです。この二つをまとめて覚えておくと、わかりやすいかもしれません。
まず前者の「特別寄与」については、以前にも一度ふれたことがあります。簡単におさらいしますと、相続において相続人以外で被相続人の生活や財産の維持などに特別な「寄与」のあった人に、その分を金額に換算し「特別寄与料」として認めてあげる制度です。
ここで注意が必要なのは、相続人以外という点です。一般的に親が亡くなった場合に子供は相続人となりますが、その配偶者は親族であっても相続人ではないので、遺産を受け取る権利はありません。ですから例えば子供の配偶者が一生懸命に介護をしていても、何も得られないことになります。
近年高齢者の介護は大きな社会問題でもあり、こうしたケースで相続人ではないという理由で何も見返りがないのはやはり問題でしょう。そこで「特別寄与料」として、介護に費やした労務や時間に対し相当する金額を請求できるようになりました。ただし金額をどう計算するかについてはまだ明確な基準がありません。
一般的な考え方として介護職員の時間給に介護に費やした時間を掛けるなどが検討されているようですが、こうしたことが予想される方はあらかじめ介護日誌などの記録を残しておくことをおすすめいたします。もし金額について相続人との間で合意できない場合は家庭裁判所に申し立てをすることができますが、それを避けるためにはその非相続人の尽力に対して遺言で「特別寄与料」を言及しておくのが望ましいでしょう。
なお相続人が被相続人の介護を行ったり事業を手伝うなどしている場合は「寄与分」というものが定められており、これは遺産分割の際に考慮することになっています。
後者の「特別受益」とは、逆に相続人が被相続人から特別に遺贈された財産や、婚姻・養子縁組あるいは生計のために受けた贈与などのことを言います。
遺贈は、財産を贈与すると遺言書に書かれている場合です。また婚姻・養子縁組のための贈与はその持参金や支度金などで、結納金や結婚式の費用は該当しません。生計のための贈与は事業資金の援助や住宅購入資金などで、少額の生活費援助などは該当しません。
相続においては、この「特別受益」の持ち戻しというのがあります。相続人の中で被相続人から遺贈や贈与を受けた人がいる場合、同じように相続すると不公平になるため、贈与の一部を「特別受益」として法定相続分から差し引くというものです。
ただし「特別受益」の持ち戻しは、被相続人の意思で免除することも可能とされています。また法定相続人以外の者に対する遺贈・贈与は、「特別受益」の対象とはなりません。
「特別受益」は相続分の計算はもちろんですが、法定相続人の遺留分の計算にも影響します。ただし現行法では「特別受益」に含まれる生前贈与は「10年以内」のものという制限が設けられています。
相続分の計算についてはこの期間制限がなく、過去にさかのぼって「特別受益」の対象となります。なお受取人が指定されている生命保険金は、受取人固有の財産として相続財産に含まれないため原則的に「特別受益」には該当しません。
この「特別受益」は遺産分割や遺留分減殺請求において主張していくもので、それだけを単独で主張するものではありません。相続人が遺産分割協議の中で相手方は贈与などの「特別受益」があるため自分の受取分はもっと多いとか、遺留分減殺請求の中で相手方の「特別受益」から見て遺留分はないといった主張をすることになります。
今回は相続における「特別寄与」と「特別受益」という相反する二つの言葉について取り上げましたが、ご理解いただけましたでしょうか。
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【2023年3月】
離婚の増加と共同親権について
先日夜のNHK『クローズアップ現代』という番組で、離婚後の子育てに関する議論が国の法制審議会で行われていることを取り上げていました。そして離婚家庭の父母や子供たちの声、さらにオーストラリアの例を取材しながら子供の幸せにとって何が最善なのかを話し合っていました。
わが国の昨年の離婚件数は約20万8千件で、前年の約18万4千件に比べ2万件以上増えています。最近の婚姻件数は約60万件ほどなので、よく言われることですがおよそ3組に1組が離婚していることになります。離婚時に未成年の子供がいるかどうかは別として、単純に子供が1人いたと仮定しても毎年およそ20万人の子供に親権問題が発生していることになります。
この親権については本コラムでも昨年12月『親権と子供の連れ去り問題』というタイトルで取り上げています。これは主に国際結婚をして離婚した日本女性が、相手の承諾なしに子供を連れ帰って問題になるケースを話題にしたものです。
そこでも書きましたが、日本では離婚した場合は父母いずれかの単独親権となりますが、欧米など多くの国では離婚しても引き続き父母の共同親権が維持されるのが普通です。その制度や考え方の違いが、子供の連れ去り問題を生む一つの大きな要因となっています。
『クローズアップ現代』の番組で桑子真帆キャスターが語るところによりますと、法制審議会では中間試案として現在次の4つの方向でそれぞれのメリット・デメリットの比較などさまざまな検討を行っていると言います。
1.現在の単独親権を維持する
2.原則として共同親権とする
3.原則として単独親権とする
4.原則を設けず個別判断とする
共同親権のメリットとしては、離婚時に親権争いが起きないこと、離婚後も子供が父母と交流ができ養育費の不払いなどが少ないこと、教育について父母と子供が一緒に話し合えることなどがあります。しかし一方では、父母の間で意見の相違があると揉めてしまい、子供がその板挟みになって苦しむなどのデメリットもあります。
オーストラリアでは離婚後も両親が子育てに関わるという考え方が浸透していて、国をあげて共同親権に取り組んできました。しかし最近この共同親権のデメリットが問題となり、一部その見直しの動きが出ているとのことです。このように単独親権と共同親権のどちらが制度として優れているのかは、それぞれの国の事情や文化の違いなどもあってはっきりとは言い切れない部分があります。
その意味ではいずれかに限定するのではなく、両方の良い部分を取り入れながら柔軟に対応して行くという考え方もあります。法制審議会においても子供の幸せにとって何が大切かという視点から十分な検討を重ね、ぜひ世界に誇れるようなわが国の親権制度を作り上げてほしいものです。
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【2023年2月】
戸籍をたどる方法とは
先月はお墓の承継について考えてみました。それは先祖代々のお墓という、家や家族のあり方の問題と密接に絡んでいます。そしてこの家や家族の問題と深く関係しているのが戸籍という制度です。
戸籍については昨年4月に「戸籍とは何のためにある?」でも取り上げました。それは簡単に言えば「国民一人一人を出生や婚姻関係などによって家族単位で登録する制度」のことで、私たちの法的な身分関係を示すものとして、パスポート発行や相続手続きなどに利用されています。
この戸籍は、婚姻や分籍(現在の戸籍から抜けて単独の戸籍を作ること)などがあれば新戸籍が作成されます。ですから一人の人間の戸籍は一つだけでなく、いくつにもまたがって連続していることが多いのです。これが戸籍制度を複雑にしている理由とも言えます。
そしてそれらは同じ本籍地にあるとは限らず、必要な場合はそれぞれの戸籍の本籍地である市区町村に請求することになります。相続手続きにおいてはしばしばこの問題が起こります。
一昨年9月に、本コラムで経済評論家の森永卓郎さんが亡くなった父の戸籍謄本を取り寄せるためにどれだけ苦労したかを「二度としたくない大変な作業」としてご紹介しました。父が生まれてから亡くなるまでのすべての居住地で、それらを集める必要があったのです。
しかし父は転勤が多く、あちこちに住所を変えていました。すべて郵送でも可能ではあったのですが日数がかかってしまうため、結局は自分で足を運んだとのことでした。
このように戸籍をたどることができるのは、戸籍には必ず入籍日とその一つ前の従前戸籍が記載されているからで、必要な場合はまず死亡時の本籍地で請求し、そこから順にさかのぼって取得して行きます。
また戸籍には「附票」というものがあります。これは本籍地の市区町村において原本と一緒に保管されている書類で、その戸籍が作られてから現在に至るまでの住所が記録されています。それを住民基本台帳と照らして閲覧すれば、転居の履歴が判明します。それによって連続した戸籍をたどることができるというしくみです。
相続手続きにおいて被相続人の戸籍をたどるのは、その配偶者や子供の有無などを確認し、誰が相続人なのかを確定させるためのものです。配偶者や子供がいない場合は、父母や兄弟姉妹の戸籍を調べる必要があることもあります。
また被相続人が亡くなった時に凍結された銀行口座を解除する手続きにおいても、必要書類の一つとしてその出生から死亡までの戸籍謄本を求められます。
これらの作業は思った以上に大変ですが、誰かがそれを行わなければなりません。私たち専門の司法書士に依頼するのも一つの有力な方法ですので、どうぞご遠慮なくご相談ください。
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【2023年1月】
お墓の承継について考える
令和5年を迎えました。長かった新型コロナも、中国を除いてはようやく収束に向かう兆しが見えてきたようです。
さて相続というとまずは財産や相続人のことを考えるのが普通で、特にお墓や仏壇などを意識する方は少ないと思います。
以前の『祭祀やお墓に関する話』で、これらは相続財産には含まれず、民法で「祖先の祭祀を主宰すべきものが承継する」と定められていて、それにはかつての「家」制度が関係していることを書きました。
古来より私たち日本人はお彼岸やお盆に先祖のお墓参りをし、それが家族をつなぐ絆にもなっていました。しかし今や大家族の時代は過ぎ去り、少子化や核家族化が急速に進んでこうした慣習は昔ほどには行われなくなっています。
さらに寺院の檀家制度がしだいに形骸化する中で、都市部と農村部のいずれにおいても「家」を守るという文化は失われつつあります。その結果として祖先の祭祀を行う者がいなくなり、多くのお墓で承継者が不在となって無縁墓になるケーが増えています。これは全国各地で空き家が増加しているのと同じ問題と言えます。
こうしたことから、最近は無縁墓とならないようあらかじめ「墓じまい」をして移転させる人が増えています。また新たにお墓を考える時に、「個別にお墓を持たない」という選択をする人も多くなっています。
前者の「墓じまい」については、お墓の遺骨を消失させるわけではなく、現在のお墓から遺骨を取り出して墓石を解体し、そこを更地にして新たな移転先に納骨するというものです。
そのためには現在のお墓の「埋蔵証明書」や移転先の「受入証明書」をお墓のある市町村役場に持参して「改葬許可書」の交付を受ける手続きが必要です。特に移転先については、承継者が不在でも永年にわたり供養してくれるお墓をあらかじめ確保しておく必要があり、場所の選定や費用などについてよく確認しておくことが大切と言えます。
後者の「個別にお墓を持たない」とは、個人スペースとして特定のお墓を持たないという意味です。私たちが実際にお墓を探してみると、自宅や遺族の住まいから遠かったり、お墓(土地)の永代使用料が高額であるなど、さまざまな問題に直面します。一般的にお墓の費用は200万円前後(都市部では300万円以上のことも)と言われます。またいつまで確かな承継者が存在するのかという不安もあります。
そこで最近増えているのが「個別にお墓を持たない」という考え方なのです。
代表的なものとしては、合祀するお墓(永代供養墓)に遺骨を納め、寺院や霊園に永代供養してもらう方法があります。
また納骨堂に納める方法や、墓石の代わりに樹木の下に埋葬する樹木葬、遺骨を粉にして海や山などに撒く散骨、さらには遺骨を自宅において供養する手元供養という方法もあります。これらは33回忌など定められた期間が過ぎた後は、永代供養墓などに合祀してもらう場合もあるようです。なお一度合祀をすると、後からお墓を作りたいと思っても遺骨を取り出すことができませんのでこの点は注意が必要です。
お墓というのは誰にとっても大変難しい問題ですね。