~毎月1回お届けする相続に関するエッセイ風コラム~

 

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目次
(2020年11月) 相続分は他者への譲渡もできる
(2020年10月) オンライン化とデジタル遺産
(2020年9月) 相続廃除や相続欠格ってなに?
(2020年8月) 相続放棄の期限と「限定承認」
(2020年7月) 相続後に行う準確定申告とは
(2020年6月) 紀州のドンファン相続問題の深まる謎
(2020年5月) 海外在住者の相続手続きについて
(2020年4月) 遺言書には遺言執行者の指定を
(2020年3月) 相続と贈与の違いあれこれ
(2020年2月) 相続税が2割加算される相続人
(2020年1月) マンションの相続について考える

 

(2019年12月~1月) 目次
(2018年12月~1月) 目次

 

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【2020年11月】
相続分は他者への譲渡もできる

 

先日、相続人が遺産の自分の相続分を第三者に譲渡できるか相談しているNHKの番組を見ました。兄とともに法定相続人になっている弟が、自分は遺産は不要なので被相続人の世話をしていた知人に相続分を譲渡したいが可能かどうかという内容で、回答者はできると回答していました。
一般的に自分が受け取れる相続財産をこのようにわざわざ他者に譲渡(無償または有償)する、というケースはあまり多くないように思われます。単に遺産を受け取りたくないのであれば、相続放棄という方法もあるからです。それをあえて他者に譲渡するというのは、どのような場合が考えられるでしょうか。

具体的にはこの番組の例のように自分よりも被相続人の世話をしていた人にその権利を譲りたいとか、あるいは遺産相続でもめそうなので面倒なことに巻き込まれたくないため他者に譲渡したいとか、さらには遺産が不動産で換金しにくい場合に他の相続人に自分の相続分を譲渡(有償)しそれを現金で受け取るといったケースなどが考えられます。
ここで言う相続分とはあくまでも相続における遺産の受取割合のことを指すもので、遺産そのものを直接的に指し示すわけではありません。それと相続放棄と異なるのは、相続人としての立場を失うわけではないので、例えば被相続人の負債が判明した場合などに債権者から返済請求されるといった可能性がないとは言えません。また当然ながらその相続分を譲渡できる相手がいることが必要となります。

このような相続分の譲渡に当たっては、きちんとした書面による契約書を交わしておくことが望まれます。自分の相続分のうちいくら(全部か一部か)をどんな条件で譲渡するか(無償か有償か)などを明確に記しておきます。その契約書を遺産分割協議が始まる前に交わし、それを他の相続人に対して知らせておくことが必要です。特に譲渡先が他の相続人ではなく第三者である場合は、遺産分割協議がスムーズに進まなくなることも予想されますので早めの手続きが望ましいと言えます。

相続分を無償で譲渡した場合は、贈与として扱われ贈与税を支払わなければならないことがありますので注意が必要です。例えば贈与(無償譲渡)額が1000万円の場合、贈与税の基礎控除は年間110万円ですので、課税価格は1000-110=890万円となります。課税価格が600万円超1000万円以下の贈与税率は40%で控除額は125万円ですので、890×0.4-125=231万円が贈与税となります。
相続財産が預貯金などであれば良いのですが、不動産の場合はこの贈与税の支払いに困ることのないようにあらかじめ計画を立てておかなければなりません。

なお第三者に譲渡された場合は、民法において相続分の価額を支払うことや譲渡されてから一ケ月以内など一定の条件のもとで、相続人による「相続分の取り戻し」が認められています。
いずれにしてもこうした相続分の譲渡や「相続分の取り戻し」などを行う場合は、契約書の作成や遺産分割協議などが必要になることが多いので、そうした手続きに不安のある方は私たち司法書士など専門家に相談されることをおすすめいたします。

 

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【2020年10月】
オンライン化とデジタル遺産

 

新型コロナウイルスは相変わらず市中に残っているようで、なかなか収束する気配がありません。おかげで世の中はオンライン化が進みましたが、特別定額給付金の申請では大きな混乱もあったようです。それに関連して各官庁や自治体などでは、様々な申請や手続き書類からハンコをなくそうという動きも加速しているようです。ただ印鑑は日本の一つの文化ともなっているため、それがどこまで進むのかは見通せないところもあります。
結局は紙の書類をどこまで減らせるかという、ペーパーレス化の問題とも言えます。印鑑だけなら、代りに欧米などのように署名(サイン)する方法もあるからです。それでは紙の書類を減らすことにはならず、手続きの簡素化にはならないでしょう。やはりネットによるオンライン化が進まないと、本当の効率化には結び付かないと思われます。

日本はこの分野で諸外国に立ち遅れていましたが、今後はデジタル庁の創設を契機にあらゆる分野でオンライン化が急ピッチで進むものと思われます。すでに法務局などでは不動産登記や商業登記などの電子署名によるオンライン申請を初め、様々な戸籍書類や台帳などの電子データ化が進んでおり、利用者の利便性は以前と比べて大きく向上しています。
しかしそれ以外の官庁や自治体、さらに個人に関してもオンライン化の進展はまだまだ不十分と言えます。昨年12月時点のわが国のスマホ普及率は個人全体で85.1%(ジャストシステム調べ)と増えて来てはいますが、特に高齢者ではパソコンやスマホを使いこなせない人が多いため、ネットによるオンライン化がなかなか進まないのが現状です。

 

このオンライン化で問題となるのが、各種の申請や手続きなどで本人確認をいかにして行うのかという点です。これについてはマイナンバーやパスワード、さらには顔認証といった様々な方法が考えられますが、個人情報の流失やプライバシー保護の観点から多くの人が不安を抱えているのも事実であり、その早急な解決策が求められるところです。

一昨年2月のこの欄でもオンライン化によるデジタル遺品の話をしていますが、それから2年半ほど経った今はその傾向がさらに顕著になっています。写真や動画などの画像を含むたくさんの情報データが、クラウド上や様々な記録メディアに保存されています。オンライン化によるキャッシュレスが進行し、銀行などでは預金通帳からネットバンキングへの移行や電子口座による株やFX取引、またビットコインなどの仮想通貨の売買、といった様々な資産のデジタル化が進みました。相続においては、それらすべてがデジタル遺品やデジタル遺産として残されることになります。

これらのデジタル化された遺品や遺産を被相続人が亡くなった後で確認しようとしても、すぐにはなかなか難しいと言えます。それらの情報や資産は被相続人のパソコンやスマホの中に保存されていますが、それらのファイルを開いたりサイトにアクセスして確認するにはIDやパスワードが必要です。しかし近年それらは複雑になる一方で、本人でさえしばしばわからなくなったりします。
それらを解除してくれる専門のIT業者もいるようですが、相続人が大変な苦労をしてそれらを解明しなければならないといったことがないように、やはり生前に何らかの目録やメモとしてきちんと残しておくことがぜひとも望まれるところです。

 

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【2020年9月】
相続廃除や相続欠格ってなに?

 

前回は相続放棄と「限定承認」の話をさせて頂きました。それらはいずれも相続人の立場から、遺産を放棄したり限定承認するものでした。しかし考えてみると、相続するのを拒むのが認められているのであれば、逆に何らかの理由により相続人として相続するのを拒まれることがあってもおかしくないかもしれません。遺言書はその一つの手段ではありますが、必ずしも万能というわけではありません。
そこで今月は相続人に重大な非行の事実などがあって、遺産相続の権利を剥奪されることがある場合の話です。これには大きく分けて、あまり耳慣れない言葉ですが「相続廃除(はいじょ)」と「相続欠格(けっかく)」の二つがあり、前者は被相続人の特別の意思や手続きが必要なのに対し、後者はそうしたものが必要なく相続人の権利が剥奪されるという違いがあります。

前者の「相続廃除」とは民法892条にもとづき相続人に著しい非行の事実がある場合に、被相続人が家庭裁判所に「推定相続人廃除審判申立て」をすることにより、相続人の持っている遺留分を含む相続権を剥奪するというものです。したがって対象者は遺留分が認められている相続人に限られ、遺留分が認められていない兄弟姉妹は遺言などで相続分を指定して相続させないことができるため、対象からは除かれます。
この「相続廃除」の理由となる著しい非行の事実とは、具体的には次のような場合です。
・被相続人を虐待した場合
・被相続人に重大な侮辱を与えた場合
・推定相続人にその他の著しい非行があった場合

これは例えば被相続人の財産を不当に処分したり、賭博で多額の借金をつくり被相続人に支払わせたり、暴力団など反社会集団に加入や結成をしたり、重大な犯罪行為で重い有罪判決を受けた。また配偶者においては、愛人と同棲して家庭を省みないなどの不貞行為をしたり、遺産目当てに戸籍上の夫婦になったなど、婚姻を継続しがたい重大な事由がある場合などです。
ただし家庭裁判所に廃除の申立てをしても必ずしもそれが認められるとは限らず、実際に認められた事例はそれほど多くありません。相続権を剥奪するとなると、やはりよほどの重大な非行の事実がないと家庭裁判所としてもなかなか認めにくいのかもしれません。なおその相続人に子供がいる場合は、相続権は代襲相続によって子供に移行することになります。


後者の「相続欠格」とは、被相続人の特別な意思や手続きは必要なく、特定の相続人について民法891条にもとづく不正な相続欠格事由が認められる場合に、その相続権を失わせるものです。こちらは具体的には次のような場合です。
・故意に被相続人あるいは先順位や同順位の相続人を死亡させる、または死亡に至らせようとしたため刑に処せられた者
・被相続人が殺害されたことを知ってこれを告発せず、または告訴しなかった者
・詐欺や強迫により、被相続人に遺言を作成、撤回、取消、変更などをさせた者
・被相続人の遺言書について偽造、変造、破棄、隠匿した者
これらはいずれも被相続人の特別な意思や手続きを必要としないため、特定の相続人にこのような相続欠格事由が認められれば相続権を失うことになります。すなわち相続が発生した場合に、他の相続人がその相続人に対して相続欠格事由を主張し、それが家庭裁判所で認められれば相続できないことになります。
この場合も「相続廃除」と同じく相続権の代襲相続は可能となりますので、この点は注意しておきたいものです。
 

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【2020年8月】
相続放棄の期限と「限定承認」

 

先月は準確定申告の期限は4ヶ月以内という話をさせて頂きましたが、今月はそれよりも短い3ヶ月が期限となっている相続放棄について取り上げたいと思います。本ホームページのお役立ちQ&Aの「相続放棄編」にもいろいろな質問と回答が掲載されていますので、そちらも参考にしてください。
一般に遺産を相続したくない(放棄したい)理由としては、被相続人が借金(負債)を抱えているケースが多いようです。あるいは相続人自身がその連帯保証人になっている場合などです。いずれも遺産の額よりも借金(負債)が大きければ、相続人が弁済の義務を引き継がなければならないので、それを回避するため相続を放棄することになるわけです。

この借金(負債)以外にも相続を放棄する理由としては、例えば相続で親族ともめ事を起こしたくないとか、他の相続人が事業を営んでいてその継続のために遺産を分割したくないとか、相続放棄した相続人がいるので自分もそうしたいとか、生前に十分世話になっているのでもう遺産を受け取らなくてもよい、等々さまざまな事情があるようです。いずれの場合も、相続人単独での放棄が可能です。
この相続放棄の期限は、「相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内」と規定されています。これを過ぎると原則として相続を承認したことになります。この間にいろいろ調べたが判断がつかずもう少し猶予がほしい場合は、「期間の伸長」を家庭裁判所に申し立てることも可能です。これにはその理由や伸長期間を記入した申立書に必要資料を添付して提出し、裁判所にその可否を判断してもらいます。

また期限が過ぎていても例外的に何か特別な理由があって相続や遺産の存在自体を知らなかった時は、裁判所がその理由を正当と判断した場合に放棄が認められることもあります。いずれのケースも専門家に相談して手続きを進めることが望ましいと言えます。
ただしいったん相続を放棄すると、後で大きな遺産が判明したとしても取り消すことはできません。放棄する場合はすべての遺産が対象となりますので注意が必要です。逆に相続を承認していて、後から遺産額を超える大きな借金(負債)が判明することもあるかもしれません。ですから、あらかじめ遺産と借金(負債)の額をできるだけ正確に把握しておくことが大切と言えます。

こうした場合にはリスクを避けるため、相続を完全に放棄するのではなく「限定承認」することも考えられます。これは「相続によって得たプラスの遺産額を限度として、債務などのマイナス遺産を相続する」ことを指します。例えば負債が1000万円なのに対して遺産が500万円といった場合、この500万円を限度として相続することになります。これはその遺産がどうしても手放したくない不動産やあるいは高額の形見の品だったりする場合に、「限定承認」によってそれを相続する方法です。
この申し立て期限は相続放棄と同じく3ヶ月以内となっていますが、実際の手続きはかなり複雑になることが多いので、やはり私たち司法書士など専門家の力を借りるのが望ましいと思われます。
 

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【2020年7月】
相続後に行う準確定申告とは
 

各種の相続手続きに関しては、それぞれ一定の期限があることが多いのはご存じと思います。例えば相続放棄をする場合は相続の開始があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内、相続税の申告と納税は同じく10ヶ月以内、といったようにです。これらはいずれも相続人に関係することがらですが、それとは別に被相続人に関係することで本人ができないため相続人が代わって行わなければならないことがあります。
それが準確定申告と呼ばれるもので、期限は同じく4ヶ月以内となっています。準確定申告とはちょっと耳慣れない言葉ですが、要は確定申告と同じで、それを被相続人の代りに相続人が行うという意味です。

ここで注意しなければならないのは、通常の確定申告は1月1日から12月31日までの所得について翌年の2月15日~3月15日までに申告することになっていますが、それとは対象となる期間や申告期限が異なる点です。準確定申告は1月1日から被相続人が死亡した日までの期間に確定した所得金額とその税額を計算し、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に申告と納税をする必要があるということです。
もし相続人が2人以上いる場合は連署により提出するのが原則ですが、それぞれが他の相続人名を付記して別々に提出することもできます。ただし申告した内容を、他の相続人に通知しておかなければなりません。
申告に当たって医療費控除や社会保険料控除などの所得控除を適用する場合は、死亡した日までに被相続人が支払った金額が対象となります。また配偶者控除や扶養控除などの適用有無については、死亡した日の現況により判定することになります。

ただしこの準確定申告は、確定申告と同じく被相続人全員が必ずしなければならないというものではありません。確定申告と同じように、次の8つのいずれかにあてはまる人が対象となります。これらに該当しなければ、準確定申告の必要はありません。
・給与収入が2,000万円を超えた場合
・給与所得、退職所得以外の所得の合計額が20万円を超えた場合
・2ヵ所以上から給与をもらっていた場合
・公的年金等による収入が400万円を超えた場合
・公的年金等による雑所得以外の所得金額が20万円を超えた場合
・生命保険などの満期金や一時金を受け取っていた場合
・土地や建物などを売却した場合
・事業所得、不動産所得がある場合

これでおわかりのように普通の会社勤めのサラリーマンや年金生活者などが亡くなって被相続人となった場合は、よほど高額の給与や年金を受け取っていたり、あるいは一時的に何らかの所得を得ていない限りは準確定申告も不要となります。これについては、被相続人が亡くなる前に確定申告をしていたかどうかや、生命保険金の受取や不動産売却などがあったかどうかも一つの判断材料になると思いますので注意しておきたいものです。
相続する場合はどうしても相続税や遺産分割の問題などに気を取られてしまい、こうした準確定申告などについては忘れてしまいがちです。4ヶ月以内というと長いようでも短いですから、やはり前もって被相続人の直近年度の所得や確定申告の有無などについてきちんと確認しておくことが、相続人として望ましいと言えます。
 

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【2020年6月】
紀州のドンファン相続問題の深まる謎
 
全国で緊急事態宣言が解除され、コロナウイルス感染もピークを過ぎたようですが、引き続き第二、三波に備え気を緩めないようにしたいものです。さて今月は昨年、一昨年に続いて再び紀州のドンファン相続問題を取り上げたいと思います。なぜ何度もと思われるかもしれませんが、相続に関してさまざまな役立つ教訓を含んでいることによります。
簡単におさらいしますと、紀州のドンファンこと野崎さんという男性が2018年5月自宅で急死し、体内から覚醒剤が検出されました。その死因から事件の可能性があるとして警察が捜査を開始し、また遺言書もみつかって、そこには当時数十億とも言われた遺産のすべてを出身地の田辺市に遺贈するという驚きの内容が記されていました。
野崎さんには子供はいませんでしたが、結婚したばかりだった若い妻や親族である4人の兄の名前は一切ありませんでした。そして田辺市が遺産の内訳を詳しく調べた結果、その相続財産は約13億円であることも判明しました。

といった内容ですが、その後妻が沈黙を守り続けているのに対し、親族の兄たちは遺言書が無効であるとの訴えを起こしました。その理由として「大の役人嫌いだった弟が田辺市に寄贈するなど考えられない」とか、「生前に遺産を愛犬に渡したいと言っていたのに、一言も触れていないのはおかしい」といったように、ペットの話まで飛び出すなどして事態はますます混迷するばかりでした。
相続においては法定相続人としての妻にはたとえ遺言書に書かれていなくとも最低限保障される遺留分というものがありますが、兄弟姉妹にはそれがありません。したがって遺言書通りなら妻は遺産を田辺市と分けて1/2は受け取れますが、兄たちは何もないため無効だと主張しているわけです。妻も遺言書が無効なら自分が3/4、残り1/4は兄たちの受け取りになりその方が多いのですが、義兄たちとの遺産分割協議を望んでいないためなのかこの件では何も主張していないようです。
 

こんな経過だったのですが、今年の3月に入って、執念の捜査を続けていた警察が自宅で亡くなる直前に購入されていた掃除機(コードレス)から覚醒剤を検出したとの新しいニュースが飛び込んで来ました。警察は多くの関係者から掃除機に関連して事情聴取を行い、それを何とか犯人に結び付けようと必死の捜査を進めているようです。
もう一つ明らかになったことは、兄たちが訴訟の中で遺言書には日付や署名捺印はあるものの、それは「コピー用紙1枚に赤ペンで手書きされたもの」であり、また「保管・発見されたとされる状況が不自然」だと主張している点です。つまり単に形式上の不備を問題にしているのではなく、あくまでもそれ自体が無効だとの主張です。すでに何度かこの欄でも述べたように、遺言書には公証人役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言と、遺言書の全文を自分で自由に書く自筆証書遺言の2種類あります。この場合でも公正証書遺言であればこのような問題はまず起こらなかったと言えます。

このように紀州のドンファン相続問題は、事件の謎の解明を進めている警察の捜査と、兄たちが起こしている訴訟の二つを軸に、渦中の妻と田辺市が関係しながら今後もまだまだ予断を許さない状況が続くと考えられます。はたしてその真実は明かされるのか、あるいは深い謎に包まれたまま終わってしまうのか、その行く末を見守りたいと思います。
 

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【2020年5月】
海外在住者の相続手続きについて

 
新型コロナウイルスの感染もようやくピークアウトしたようで、これからは自粛生活も徐々に緩和されそうです。しかしもうしばらくは気を引き締めたいものです。パンデミックがあっという間に世界に広がったように、人と経済の動きは国境を超えてますます拡大しています。今や日本においても留学や海外勤務、国際結婚、さらにはリタイア後の第二の人生など、さまざまな理由により海外で長年在住する人たちが増えています。
そうした人たちに相続の問題が起こった時(被相続人としてあるいは相続人として)は、どうすればよいのでしょうか。今回はそうした海外在住者に関する相続手続きの話をしてみたいと思います。

一口に海外在住者と言いましてもその居住や生活のしかたはさまざまで、住居形態や居住期間、財産の蓄積方法などもいろいろです。場合によっては外国籍を取得した方もいるでしょうが、ちなみに日本国籍を喪失していると日本の法律が適用されなかったり複雑になることが多いので今回は対象外とし、ひとまず日本国籍のある方の相続ということに話を限定させていただきたいと思います。
ここでまず注意していただきたいのは、被相続人が海外で財産を蓄積している場合です。簡単に言いますと被相続人と相続人の両方が海外で10年以上居住している場合は、被相続人の海外の財産は日本の相続税の対象とはならず、日本の財産のみが対象となります。逆に言えばそれ以外は、被相続人の海外の財産も相続税の対象となります。そして基本的にはその遺産を受け取る相続人に対しては、日本の相続税が課税されることになります。

このように被相続人が海外で取得した財産がある場合はそれが含まれるかどうかをまず判断し、相続財産の範囲や金額を明確にすれば、あとは誰が相続人になるかを確定させるなどは通常の相続と同じです。
その相続手続きにおいては、被相続人の遺言の有無が一つのポイントとなります。遺言書があれば相続人に対する遺産分割も比較的スムーズに行くはずですが、なければ相続人同士が集まってあるいは電話やメールで話し合うなどの方法により遺産分割協議を行い書面を作成しなければなりません。

この遺産分割協議書の作成には、各相続人の署名捺印(実印)と印鑑証明書が必要となります。日本国内に住民票がある場合は容易に作成できますが、海外在住者で住民票を抹消している場合はそれに代わる「サイン証明」(サインでの印鑑証明書の代り)と「在留証明」(住民票の代り)の二つの書類を海外で用意しなければなりません。このためにはそれぞれ在住の国の在外公館(大使館や領事館)にご本人が直接出向いて遺産分割協議書にサインすると同時に、これらの書類を発行してもらいます。
ただし日本国籍があることや、現地に3ケ月以上滞在してその時点で居住していることなどが条件となります。申請に当たってはパスポートやその他居住していることを示す書類(たとえば公共料金の請求書など)も必要となりますので、事前に確認の上持参して手続きしてもらえれば、遺産分割協議書が作成できます。
いずれにしましても海外在住者の場合はその後の手続きも何かと難しいことがありますので、やはりひとまず専門家に相談されることをおすすめいたします。
 

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【2020年4月】
遺言書には遺言執行者の指定を

 
収まる気配のない新型コロナウイルス感染ですが、肺炎の怖さと同時に観光や経済面の打撃も深刻になっています。皆で力を合わせ、何とかこの事態を乗り切りたいものです。
今回は相続において大切な遺言書と、遺言執行者の指定について取り上げたいと思います。
遺言書は相続における無用の争いを避ける意味でも重要で、近年はしだいに作成する人が増えてきています。その形式としては昨年2月の本コラムでも詳しく述べましたが、自分の思い通りに書く自筆証書遺言と、手続きがやや面倒な公証役場で公証人が作成する公正証書遺言の二つがあります。

自筆証書遺言は簡単ですが、いくつかデメリットがあったため、最近その方式が緩和されています。財産目録をパソコンなどの文書作成ソフトで作ったり、預貯金の通帳コピーを添付することが可能となりました。さらに保管場所が不明になったり偽造や破棄を避けるため、法務局で保管する制度が創設されました。ある程度は法務局が様式のチェックをしてくれ、相続人の死後に家庭裁判所が行う「検認」が不要となります。ただし内容面の審査や確認をしてくれるわけではない点に、注意する必要があります。
この遺言書作成に関連して、遺言執行者の指定ということがあります。

 

遺言執行者とは簡単に言えば、遺言の内容を実行するための権限を持ってその手続きを行う人のことです。具体的には相続財産目録の作成や、法務局での不動産名義変更の手続き、遺産分割方法の指定、相続人以外の者への遺贈、さらには子供の認知といった特別な役割もあります。
特に相続人が複数いる場合には作成する書類が多くなり、このように遺言執行者が相続人を代表して手続きを進めないと手続きが非常に面倒になってしまいます。また相続人同士の利害によりさまざまな問題が起った場合は、それを調整する必要があります。こうしたことに対処する意味でも、遺言執行者を指定しておくことが望ましいと言えます。ちなみに遺言執行者がいれば、それ以外の人はそうした手続きを執行できないことになっています。

この遺言執行者には、未成年者と破産者以外は基本的に誰でもなることができます。もちろん遺言がない場合は遺言執行者もいないわけですが、その他にも遺言書の範囲内ですべて有効に手続きが完了する場合もその必要はありません。逆に子供を認知する場合や、相続人の廃除・その取り消し等については遺言執行者しかできませんので、その選任は必須となります。

遺言執行者を選任するには、主として次の三つの方法があります。
①遺言書で指名する ②家庭裁判所で選任してもらう ③第三者に遺言執行者を決めてもらう(遺言執行者を決める人を指名しておくもの)
一番わかりやすいのは、やはり①の遺言書で明確に指定しておくことでしょう。
遺言執行者を相続人以外の人にする場合は何らかの報酬が発生することになりますが、相続に関してはそれなりの専門知識がある方が利害関係の調整や手続きがスムーズに運びますので、私たち司法書士のような専門家を指定しておくのが望ましいと思われます。
 

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【2020年3月】
相続と贈与の違いあれこれ

 
新型コロナウイルスの感染で大変な事態となっていますが、一刻も早くこの騒ぎが終息することを願うばかりです。
さて今回は相続と贈与の違いについての話です。どちらも財産を人に譲り渡すという点では同じようにも思えますが、そもそも相続と贈与の違いはどこにあるのでしょうか?
まず相続は死後に発生するものであるのに対し、贈与は生前に行われるという時期の違いがあります。さらに相続は基本的に法定相続人(親族)が対象であるのに対し、贈与は相手を自由に選べるという点も違っています。そしてちょっとまぎらわしいのが「遺贈」ですが、文字通り遺言による贈与という意味ですから、それが行われるのは贈与する人の死後になり、贈与の相手も相続人(親族)以外ということになります。

また贈与においては、双方の合意が必要という条件があります。相手の同意なしに勝手に贈与することはできません。口頭の約束でもかまいませんが、トラブルを防ぐ意味からも贈与契約書を交すのが一般的です。ただし「遺贈」の場合は、相続と同じように必ずしも相手の同意は必要ありません。受け取りたくない時は、相続と同じくその権利を放棄することができます。このような相続と贈与の基本的な違いを、まずは正しく理解しておきたいものです。

 

次に相続と贈与の税制上の違いを、見てみたいと思います。相続税と贈与税という言葉があるように、これらは税制では明確に区分されています。ただし「遺贈」は、実質が相続に近いものであるため相続税が適用されることになっています。
それらの違いの主なものとして、基礎控除額と税率があります。
基礎控除額は相続では3,000万円+600万円×相続人数であるのに対し、贈与では年間110万円までは非課税となります。また相続は一時的な課税であるのに対し、贈与では単年毎の暦年課税という違いがあります。
税率もそれぞれ違っていますが、細かい部分を省略してきわめて大雑把に述べると相続に比べ贈与の方が税率は高くなっています。これは相続財産の受取人は親族が多いのに対し、贈与はそれ以外の人も多いため、ひとまず相続の方を優遇して税率を低くしていると考えられます。

ただし贈与では、いろいろなケースにおいて優遇措置が設けられています。例えば少子化対策として「結婚・子育て資金」用に、20~50歳の子供や孫に一回だけ1000万円まで(結婚については300万円まで)非課税で贈与できる制度や、30歳未満の子や孫に「教育資金」として1500万円まで非課税で贈与できる制度があります。いずれも所得1000万円以下の人に限定されますが2021年3月末まで有効で、金融機関に資金口座を開設して行います。
また60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子や孫への贈与の場合に、2500万円まで贈与税がかからない「相続時精算課税」を選択できる制度もありますが、これについては機会をあらためてまた詳しくご紹介したいと思います。

このように相続と贈与はどちらも財産の譲渡という面では似ていますが、違う点も多くあります。一般的には生前に自由意志で相手と共に行うものを贈与と呼び、死後に行われるものを相続と呼んでいるわけです。実際にはそれに法律や税制の問題が絡むため、いろいろと難しい点が多くなります。どうぞ内容をよくお確かめの上、じっくりご検討くださるようお願いいたします。
 

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【2020年2月】
相続税が2割加算される相続人

 
相続人の一般的な範囲は、遺贈などによる特別な人を除いては配偶者と子供や孫、父母、祖父母、兄弟姉妹などの親族です。この中で配偶者は常に相続人となり、それぞれの相続順位は子供が第一順位、父母や祖父母が第二順位、兄弟姉妹が第三順位となります。たいていの場合は、これらの人が相続することが多いと思われます。相続人が確定すれば次に遺産分割協議などにより相続金額を調整し、それぞれの相続税を計算して行くことになります。
その際に、これら相続人と被相続人の親等の違いにより、相続税額に差が設けられることがあります。各自が受け取る相続財産の額の違いで税率に差があるのはわかるとしても、親等の違いで税額が変わるのはなぜという疑問を抱かれるかもしれません。その根拠になっているのは相続税法第18条です。少し長いですが引用します。

「相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続又は遺贈に係る被相続人の一親等の血族(当該被相続人の直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため、代襲して相続人となった当該被相続人の直系卑属を含む。)及び配偶者以外の者である場合においては、その者に係る相続税額は、前条の規定にかかわらず、同条の規定により算出した金額にその百分の二十に相当する金額を加算した金額とする。」
 

つまり配偶者や一親等の子供または父母以外が財産を相続すると、相続税額は2割加算されることになります。このような規定はなぜ生まれたのでしょう。その理由としてよく言われるのは、相続の税負担を調整して公平性を保つためということです。
具体的には例えば子供がいてもいずれは死んで孫に遺産が相続されるのなら、子供を飛ばして直接孫に相続するといったケースが考えられます。本来なら子供が相続していったん相続税を支払い、さらに子供が死んで孫に相続する時にもう一度相続税を支払うのが一般的ですが、税を支払う機会が一度だけになり税負担が少なくなってしまいます。そのため税負担を調整しようという考え方により、こうしたケースでは相続税額に2割加算することになったわけです。
たしかに孫への相続の場合は頷ける気がしますが、では祖父母や兄弟姉妹でも同じことが言えるのかと突っ込まれそうです。一親等ではないので間を飛ばしているというのはその通りかもしれませんが、それによって誰かの税負担が軽くなるかと言えばそれはあまり関係ない気もします。

これはおそらく、相続というのは本来は配偶者や子供(または例外的に父母まで)のためのものであり、祖父母や兄弟姉妹はもともと被相続人との関係もそれほど濃いものではなく(特に兄弟は他人の始まりとよく言われ遺留分もありません)、優遇される理由はないということではないでしょうか。
それはともかくとして、この相続税の2割加算についてはご存知ない方も多いように思われます。さらに言えばこれは孫や祖父母、兄弟姉妹だけに適用されるのではなく、甥や姪、さらには内縁の妻(夫)、あるいは遺贈により財産を受け取る人などにもあてはまります。ご自分ないしはご家族の将来の相続を想定して、このようなケースが考えられそうな場合はあらかじめ注意しておきたいものです。
 

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【2020年1月】
マンションの相続について考える

 
2020年(令和2年)を迎えました。わが国の高齢化と少子化は、今後もますます進みそうです。
さて先月の相続登記に関連し、今回はマンションの相続について取り上げたいと思います。言うまでもなく預貯金や有価証券など分割や交換がしやすい財産と違い、マンションという不動産は相続するとなるといろいろな問題が起こりがちです。
戸建ての場合は所有者は少人数なのでそれをどうするかの意思決定は比較的容易ですが、マンションは多人数による区分所有という形態なので何かと悩まされることが多くなります。亡くなられた被相続人と一緒に住んでいた場合はいろいろな事情もある程度知っているわけですが、住んでいない親族のマンションなどを急に相続すると少々厄介です。

通常マンションは区分所有者が集まって管理組合を作り、管理会社に管理費や修繕積立金の集金や日々の管理清掃業務などを委託しています。区分所有者には毎月それなりの費用が発生するとともに、管理組合運営のため理事などの役員に就かなければならないこともありますし、また固定資産税の納付といったさまざまな負担がかかってきます。
このようなマンションを相続するとすれば、そのまま継続して所有するか、あるいは売却するかの方針を決めることがまず求められます。仮に所有を継続する場合でも、それをいつまで所有するのか、あるいは誰かが住むのか(賃貸の可能性も含めて)といったことを検討しなければなりません。また売却する場合でも、物件の立地環境や築年数、内装設備などによってどのくらいの価額になりそうか相場を確認しながら見究めなければなりません。それぞれにメリットやデメリットがあると思われますので、それらを比較しながらいずれが望ましいかを判断する必要があります。

一般的に相続対象となるマンションは、かなりの築年数の物件であると予想されます。この点に関しよく言われるのは、マンションはいったいどれくらいの年数まで住めるかという寿命(耐用年数)の問題です。これについてはいろいろな説があり、また見方によっても変わってきます。
例えば税法では減価償却の面から耐用年数はひとまず47年とされていますが、これはあくまでも建物価値の計算上の話でありその後も住むことは可能です。建物として見ると、RC(鉄筋コンクリート)造りでは寿命はおよそ100年と言われます。しかし建物としては維持できても、内部の配管などが老朽化して取替えできないと住めなくなってしまいます。ですから建築条件の違いなどで一概に何年と言うのは難しいのですが、おおむね長くても80~100年というのが一つの目安ではないでしょうか。
なおマンションを建替えるには、区分所有者の4/5以上の賛成が必要という条件にも留意しておきたいものです。

このように継続所有するにしろ売却するにしろ、そのマンションの現状と今後の見通しをよく把握した上でそれぞれの違いを十分に比較検討し結論を出すのが望ましいでしょう。まだ相続が発生していなくても近い将来その可能性があるのであれば、今のうちから調べてそれに備えておくことも大切と思われます。
 

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