~毎月1回お届けする相続に関する楽しいイラスト付きエッセイ風コラム~

 

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目次
(2026年2月) AIで税務の効率化を図る
(2026年1月) 池井戸潤の『かばん屋の相続』
 
(2025年12月) ペットの「終活」も忘れずに
(2025年11月) 土地の詐欺を狙う「地面師」
(2025年10月) 法律を陰で支える「公証役場」
(2025年9月) 都市と農村で戸籍が違う中国
(2025年8月) お盆と「死後離婚」の話
(2025年7月) 複雑な長嶋家の相続問題
(2025年6月) 相続税はどれくらい?
(2025年5月) 相続したくない財産
(2025年4月) 中小企業の事業承継
(2025年3月) 神戸市の『樹林墓地』計画
 
(2025年12月~1月) 目次
(2024年12月~1月) 目次
(2023年12月~1月) 目次
(2022年12月~1月) 目次
(2021年12月~1月) 目次
(2020年12月~1月) 目次
(2019年12月~1月) 目次
(2018年12月~1月) 目次
 
 

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【2026年2月】
AIで税務の効率化を図る
 
ふだんあまり話題になりませんが、国税庁には「国税総合管理システム」(KSK)と呼ばれる巨大なデータベースがあります。これには国民一人一人が「だいたいどれくらいの財産を持っているか」という情報が蓄積されています。例えば以下のようなものです。
・過去の所得税や贈与税の確定申告情報
・銀行口座の入出金履歴や残高、証券会社の保有株式等
・不動産の登記情報や評価額
・生命保険の受取金額
さらに、国際的な情報交換制度であるCRS(共通報告基準)を通じて、海外の銀行口座や証券口座の情報も日本の税務当局に届きます。国内外を問わず財産情報はこの「KSK」に集約されているのです。

国税庁は本年9月からこれを次世代システム「KSK2」に移行させ、税務行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する計画です。これにより申告書や納付書の様式も変更され、データ入力業務の効率化が期待されています。
さらに納税者の利便性向上と税務行政の効率化のため、近年あらゆる分野に取り入れられているAI技術を積極的に活用する計画です。各種の税務調査においても、「KSK」に蓄積された過去の申告情報や銀行口座の入出金履歴、不動産登記情報など、個人の財産に関する膨大なデータをAIが分析します。そして申告漏れの可能性が高い対象者を効率的に抽出し、実地調査の精度を高めています。

 

AIと税務

 
相続税の税務調査においてもAIを導入し、申告漏れの可能性が高い対象者を効率的に選定しています。
相続税は「資産家だけが狙われる」と思っている人も多いのですが、実際はもっとシステム的に行われています。令和6年度の実績を見ると、全国で9512件の調査が行われ、うち7826件(82.3%)で申告漏れが発覚しました。税務調査に入られると、8割以上の確率で追徴課税されるのが現実です。
調査1件当たりの追徴税額は867万円に上ります。相続税は財産の名義には関係なく、真実の所有者に課されます。このため調査では、亡くなった方の配偶者や子、孫名義の財産のうち、実質的に亡くなった方の財産(名義財産)がないかどうか徹底的にチェックします。

国税庁の公表では、所得税の調査においても約73万6000件(前年度は60万5000件)で追徴課税があり、税額は1431億円(同1398億円)といずれも過去最高になりました。
具体的にどこに着目するかというと、不動産や株式などの譲渡所得です。譲渡が生じれば多くの場合に課税関係が発生します。それをAIの活用により精度を高めて把握します。
同庁は「申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」を公表しましたが、上位には「キャバクラ」「眼科医」「ホステス・ホスト」「経営コンサルタント」「太陽光発電」などの業種が並んでいます。現金取引の多さ、売上計上のタイミング、経費性の判断、外注や報酬の処理など、“論点”が多い業種ほど申告漏れが出やすいことを示しています。

 

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【2026年1月】
池井戸潤の『かばん屋の相続』
 
新年に当たり、相続にまつわる最近の話題作『かばん屋の相続』をご紹介してみたいと思います。作者はあの直木賞受賞の『下町ロケット』などで有名な池井戸潤です。
作者の略歴を記しますと、1963年岐阜県生まれで、子供の頃から図書館でたくさんのミステリーを読み漁っていたようです。そして慶応義塾大学文学部および法学部卒業後、1988年三菱銀行(当時)に入社。1995年32歳の時に退社し、コンサルタント業のかたわらビジネス書の執筆や税理士・会計士のソフト監修などを手がけます。しかし将来に不安を感じ、夢だったミステリー作家の道を目指します。

そして元銀行員の経験を生かし1998年『果つる底なき』で見事に第44回江戸川乱歩賞を受賞し、作家としてデビュー。その後2010年『鉄の骨』で第31回吉川英治文学新人賞を、2011年中小企業を舞台にした『下町ロケット』で第145回直木賞受賞を果たします。
その他に銀行を舞台にした半沢直樹シリーズ(『オレたちバブル入行組』など)や花咲舞シリーズ(『不祥事』など)のほか、弱小企業野球部の救済を描いた『ルーズヴェルト・ゲーム』、企業の不正を描いた『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』、また政治と若者の就職難をテーマにした『民王』など、幅広いジャンルのエンタメ作品を数多く執筆していることで知られます。

 

かばん屋の相続

 
その池井戸潤がこのたび文春文庫として刊行したのが、働く男たちの愛憎や葛藤を描いたオリジナル短編集『かばん屋の相続』です。表題作である『かばん屋の相続』は、実際の企業で起こった遺言書偽造事件に着想を得た作品です。
池上信用金庫に勤める主人公の小倉太郎。その融資先として長年つきあってきた「松田かばん」の松田義文社長が急逝し、二人の兄弟が残されます。会社を専務として手伝っていた次男均に対し、父の生前に「相続を放棄しろ」と迫り、「会社の株全てを大手白水銀行に支店長として勤めていた長男亮に譲る」と書かれていた怪しい遺言書を片手に乗り込んできた長男。それに対し何も文句を言わず黙って店を明け渡そうとする次男。乗り込んできた長男と対峙する小倉太郎。果たして父の思いはどこにあったのか? といったあらすじです。

表題作の他に『十年目のクリスマス』『芥のごとく』『セールストーク』『手形の行方』『妻の元カレ』と、ミステリー要素が強いものや銀行員の私生活に焦点を当てたものなど五編が収録されています。
池井戸作品の主人公は、多くの場合において企業の利益を優先する上司や役員に対し自らの正義との間で苦悩します。本作においても『かばん屋の相続』や『十年目のクリスマス』『芥のごとく』で、彼らはその二者択一に悩み苦しみます。企業人としてならば答えは初めから決まっているのですが、単純にそうと決められないのが人情であり、そこに読者は心動かされるのです。
もちろん現実はそれほど甘くはなく、正義を貫いた者が必ずしも幸せになれるわけではありません。そうと知ってはいても、池井戸作品の主人公たちには正義を貫いてほしい。おそらく多くの読者が、そう願っているのではないでしょうか。
今年もまたその作品に大いに期待したいところです。

 

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