~毎月1回お届けする相続に関する楽しいイラスト付きエッセイ風コラム~

 

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目次
(2026年4月) 空き家と共有不動産
(2026年3月) 「特定空家」と「管理不全空家」
(2026年2月) AIで税務の効率化を図る
(2026年1月) 池井戸潤の『かばん屋の相続』
 
(2025年12月) ペットの「終活」も忘れずに
(2025年11月) 土地の詐欺を狙う「地面師」
(2025年10月) 法律を陰で支える「公証役場」
(2025年9月) 都市と農村で戸籍が違う中国
(2025年8月) お盆と「死後離婚」の話
(2025年7月) 複雑な長嶋家の相続問題
(2025年6月) 相続税はどれくらい?
(2025年5月) 相続したくない財産
 
(2025年12月~1月) 目次
(2024年12月~1月) 目次
(2023年12月~1月) 目次
(2022年12月~1月) 目次
(2021年12月~1月) 目次
(2020年12月~1月) 目次
(2019年12月~1月) 目次
(2018年12月~1月) 目次
 
 

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【2026年4月】
空き家と共有不動産
 
前月に引き続き、空き家に関係する問題を取り上げたいと思います。先日のNHK「クローズアップ現代」の番組でも、「住まいの高騰」「老朽化」「相続トラブル」という3つの課題を上げながら、これから大量に発生することが見込まれる住居の相続問題を解説していました。とりわけ親が亡くなったり、認知症で施設に入るなどして空き家になった住居の相続をめぐる悩みやトラブルが年々増えています。
その一つとして、住居を兄弟姉妹など複数人が共有名義で相続するケース(共有不動産)があります。その処分方針や費用負担をめぐって意見が割れると、何年にもわたり空き家が放置されることになってしまいます。すぐには決められないからとその場しのぎで共有にしてしまうと、後に大きな負担や後悔となってはね返ってくることが多いのです。

このような共有不動産が長年放置される場合に備え、民法では「共有物分割請求訴訟」という法的手段が認められています。これは他の共有者との合意がなくても、家庭裁判所や地方裁判所に訴えを起こし、共有状態を解消して単独所有や換価分割(売却して現金で分ける)などを行うための制度です。
これは通常の訴訟のようにどちらかの勝敗を決めるものではなく、裁判所に適切な分割方法を裁定してもらう、いわゆる「形式的形成訴訟」とされるものです。そして当事者の主張にかかわらず、裁判所は何らかの分割をしなければならないという特色があります。

 

共有不動産

 
この訴訟は、原則として拒否できません。共有者は民法の規定により共有物の分割を請求できますし、また分割を請求された場合は原則として共有状態の解消を拒否することはできません。どうしても分割を避けたい場合は、共有者全員の合意により「分割禁止特約」を結ぶという方法があります。
この「共有物分割請求訴訟」により、裁判所は主に次の3つの分割方法を検討します。①現物分割:共有物を物理的に分割する。土地の分筆など。②価格賠償(代償分割):共有者の一人が他の共有者の持分を取得し、その対価を支払うなど。③換価分割(競売):共有物全体を売却し、その代金を持分割合に応じて分配するなど。

またこの訴訟の手続きの流れは、次の通りです。
1.事前協議:まずは共有者間で話し合う。
2.調停:事前協議で解決しない場合は調停を申し立てる。
3.訴訟提起:調停不成立の場合は裁判所に訴状を提出する。
4.口頭弁論:裁判所で双方の主張を述べ、審理が進行する。
5.和解または判決:裁判所の和解勧告に応じるか、あるいは判決により分割方法を決定する。
このように他の共有者の同意がなくても、裁判所の判断により解決できる点が大きなメリットです。その一方で解決までに時間と費用がかかることや、必ずしも希望通りになるとは限らないこと、また競売を命じる判決となった場合は市場価格より低く売却される可能性があるなどのデメリットもあります。
特に競売の可能性がある場合は、事前に競売のしくみや特長をよく理解しておくことが大切と言えます。

 

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【2026年3月】
「特定空家」と「管理不全空家」
 
空き家については以前にも何度か取り上げていますが、なかなか改善の兆しが見えません。総務省の『住宅・土地統計調査(令和5年)』によれば、全国の空き家は900万戸を超え、空き家率は13.8%に上昇しています。中でも賃貸・売却用や二次的住宅など用途が明確なものを除く空き家は約386万戸で、過去最多を記録しました。
このような用途不明の空き家は老朽化により倒壊や近隣への環境被害などの恐れがあり、今や大きな社会問題となりつつあります。この空き家ですが、正確には「特定空家等」と「管理不全空家等」の二つの区分があるのをご存知でしたか?

この「特定空家等」と「管理不全空家等」とは、それぞれどのような空き家を指すのでしょうか。
まず「特定空家等」とは「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、次のいずれかの状態にある空き家を指します。
・倒壊など、保安上著しく危険な状態
・著しく衛生上有害となる恐れのある状態
・適切な管理がされず、著しく景観を損なっている状態
・その他、周辺の生活環境の保全に不適切な状態
「特定空家等」に指定されると、所有者には国や自治体からの次のような厳しい措置がありますので注意が必要です。
・住宅用地の特例が適用されなくなり、固定資産税が最大6倍になる可能性がある。
・自治体から改善を求める助言や指導が行われ、従わない場合は勧告や命令へと進む。
・その命令にも従わない場合、自治体が強制的に解体などを行い、費用は所有者に請求される。

 

空き家

 
これに対し「管理不全空家等」とは、2023年の「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」により新設された区分です。適切な管理が行われずにそのまま放置すると「特定空家等」になる恐れがある空き家のことで、言わば「特定空家等」になる前の段階の空き家を指します。
「管理不全空家等」と認定されるのは、次のような場合です。
・倒壊の恐れがあるなど、安全性が疑われる状態。
・著しく衛生上有害となる恐れがある状態。
・適切な管理がされず、著しく景観を損なっている状態。
・周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態。

このような「特定空家等」や「管理不全空家等」になるのを防ぐには、以下のようなさまざまな方策が考えられます。
・定期的な清掃や修繕を行い、適切に管理することで建物の劣化を防ぐ。
・賃貸などで他者に貸し出すことで、管理と収益化を図る。
・可能ならば、自身で居住して空き家をなくす。
・売却することで、新たな所有者に管理を任せる。
・解体して更地にする。(固定資産税の負担を軽減できる場合もある)
どの方策を取るにしても、現実的にはそんなに簡単ではないかもしれません。しかしいつまでも先送りしていては解決になりません。こうした空き家の問題は家族だけで悩むのではなく、自治体や不動産会社、専門機関など各種の窓口に相談するのも有力です。ぜひいろいろな対策を早めにお考え頂きたいと思います。

 

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【2026年2月】
AIで税務の効率化を図る
 
ふだんあまり話題になりませんが、国税庁には「国税総合管理システム」(KSK)と呼ばれる巨大なデータベースがあります。これには国民一人一人が「だいたいどれくらいの財産を持っているか」という情報が蓄積されています。例えば以下のようなものです。
・過去の所得税や贈与税の確定申告情報
・銀行口座の入出金履歴や残高、証券会社の保有株式等
・不動産の登記情報や評価額
・生命保険の受取金額
さらに、国際的な情報交換制度であるCRS(共通報告基準)を通じて、海外の銀行口座や証券口座の情報も日本の税務当局に届きます。国内外を問わず財産情報はこの「KSK」に集約されているのです。

国税庁は本年9月からこれを次世代システム「KSK2」に移行させ、税務行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する計画です。これにより申告書や納付書の様式も変更され、データ入力業務の効率化が期待されています。
さらに納税者の利便性向上と税務行政の効率化のため、近年あらゆる分野に取り入れられているAI技術を積極的に活用する計画です。各種の税務調査においても、「KSK」に蓄積された過去の申告情報や銀行口座の入出金履歴、不動産登記情報など、個人の財産に関する膨大なデータをAIが分析します。そして申告漏れの可能性が高い対象者を効率的に抽出し、実地調査の精度を高めています。

 

AIと税務

 
相続税の税務調査においてもAIを導入し、申告漏れの可能性が高い対象者を効率的に選定しています。
相続税は「資産家だけが狙われる」と思っている人も多いのですが、実際はもっとシステム的に行われています。令和6年度の実績を見ると、全国で9512件の調査が行われ、うち7826件(82.3%)で申告漏れが発覚しました。税務調査に入られると、8割以上の確率で追徴課税されるのが現実です。
調査1件当たりの追徴税額は867万円に上ります。相続税は財産の名義には関係なく、真実の所有者に課されます。このため調査では、亡くなった方の配偶者や子、孫名義の財産のうち、実質的に亡くなった方の財産(名義財産)がないかどうか徹底的にチェックします。

国税庁の公表では、所得税の調査においても約73万6000件(前年度は60万5000件)で追徴課税があり、税額は1431億円(同1398億円)といずれも過去最高になりました。
具体的にどこに着目するかというと、不動産や株式などの譲渡所得です。譲渡が生じれば多くの場合に課税関係が発生します。それをAIの活用により精度を高めて把握します。
同庁は「申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」を公表しましたが、上位には「キャバクラ」「眼科医」「ホステス・ホスト」「経営コンサルタント」「太陽光発電」などの業種が並んでいます。現金取引の多さ、売上計上のタイミング、経費性の判断、外注や報酬の処理など、“論点”が多い業種ほど申告漏れが出やすいことを示しています。

 

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【2026年1月】
池井戸潤の『かばん屋の相続』
 
新年に当たり、相続にまつわる最近の話題作『かばん屋の相続』をご紹介してみたいと思います。作者はあの直木賞受賞の『下町ロケット』などで有名な池井戸潤です。
作者の略歴を記しますと、1963年岐阜県生まれで、子供の頃から図書館でたくさんのミステリーを読み漁っていたようです。そして慶応義塾大学文学部および法学部卒業後、1988年三菱銀行(当時)に入社。1995年32歳の時に退社し、コンサルタント業のかたわらビジネス書の執筆や税理士・会計士のソフト監修などを手がけます。しかし将来に不安を感じ、夢だったミステリー作家の道を目指します。

そして元銀行員の経験を生かし1998年『果つる底なき』で見事に第44回江戸川乱歩賞を受賞し、作家としてデビュー。その後2010年『鉄の骨』で第31回吉川英治文学新人賞を、2011年中小企業を舞台にした『下町ロケット』で第145回直木賞受賞を果たします。
その他に銀行を舞台にした半沢直樹シリーズ(『オレたちバブル入行組』など)や花咲舞シリーズ(『不祥事』など)のほか、弱小企業野球部の救済を描いた『ルーズヴェルト・ゲーム』、企業の不正を描いた『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』、また政治と若者の就職難をテーマにした『民王』など、幅広いジャンルのエンタメ作品を数多く執筆していることで知られます。

 

かばん屋の相続

 
その池井戸潤がこのたび文春文庫として刊行したのが、働く男たちの愛憎や葛藤を描いたオリジナル短編集『かばん屋の相続』です。表題作である『かばん屋の相続』は、実際の企業で起こった遺言書偽造事件に着想を得た作品です。
池上信用金庫に勤める主人公の小倉太郎。その融資先として長年つきあってきた「松田かばん」の松田義文社長が急逝し、二人の兄弟が残されます。会社を専務として手伝っていた次男均に対し、父の生前に「相続を放棄しろ」と迫り、「会社の株全てを大手白水銀行に支店長として勤めていた長男亮に譲る」と書かれていた怪しい遺言書を片手に乗り込んできた長男。それに対し何も文句を言わず黙って店を明け渡そうとする次男。乗り込んできた長男と対峙する小倉太郎。果たして父の思いはどこにあったのか? といったあらすじです。

表題作の他に『十年目のクリスマス』『芥のごとく』『セールストーク』『手形の行方』『妻の元カレ』と、ミステリー要素が強いものや銀行員の私生活に焦点を当てたものなど五編が収録されています。
池井戸作品の主人公は、多くの場合において企業の利益を優先する上司や役員に対し自らの正義との間で苦悩します。本作においても『かばん屋の相続』や『十年目のクリスマス』『芥のごとく』で、彼らはその二者択一に悩み苦しみます。企業人としてならば答えは初めから決まっているのですが、単純にそうと決められないのが人情であり、そこに読者は心動かされるのです。
もちろん現実はそれほど甘くはなく、正義を貫いた者が必ずしも幸せになれるわけではありません。そうと知ってはいても、池井戸作品の主人公たちには正義を貫いてほしい。おそらく多くの読者が、そう願っているのではないでしょうか。
今年もまたその作品に大いに期待したいところです。

 

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