紀州のドンファン相続問題の深まる謎

全国で緊急事態宣言が解除され、コロナウイルス感染もピークを過ぎたようですが、引き続き第二、三波に備え気を緩めないようにしたいものです。さて今月は昨年、一昨年に続いて再び紀州のドンファン相続問題を取り上げたいと思います。なぜ何度もと思われるかもしれませんが、相続に関してさまざまな役立つ教訓を含んでいることによります。
簡単におさらいしますと、紀州のドンファンこと野崎さんという男性が2018年5月自宅で急死し、体内から覚醒剤が検出されました。その死因から事件の可能性があるとして警察が捜査を開始し、また遺言書もみつかって、そこには当時数十億とも言われた遺産のすべてを出身地の田辺市に遺贈するという驚きの内容が記されていました。
野崎さんには子供はいませんでしたが、結婚したばかりだった若い妻や親族である4人の兄の名前は一切ありませんでした。そして田辺市が遺産の内訳を詳しく調べた結果、その相続財産は約13億円であることも判明しました。

といった内容ですが、その後妻が沈黙を守り続けているのに対し、親族の兄たちは遺言書が無効であるとの訴えを起こしました。その理由として「大の役人嫌いだった弟が田辺市に寄贈するなど考えられない」とか、「生前に遺産を愛犬に渡したいと言っていたのに、一言も触れていないのはおかしい」といったように、ペットの話まで飛び出すなどして事態はますます混迷するばかりでした。
相続においては法定相続人としての妻にはたとえ遺言書に書かれていなくとも最低限保障される遺留分というものがありますが、兄弟姉妹にはそれがありません。したがって遺言書通りなら妻は遺産を田辺市と分けて1/2は受け取れますが、兄たちは何もないため無効だと主張しているわけです。妻も遺言書が無効なら自分が3/4、残り1/4は兄たちの受け取りになりその方が多いのですが、義兄たちとの遺産分割協議を望んでいないためなのかこの件では何も主張していないようです。

こんな経過だったのですが、今年の3月に入って、執念の捜査を続けていた警察が自宅で亡くなる直前に購入されていた掃除機(コードレス)から覚醒剤を検出したとの新しいニュースが飛び込んで来ました。警察は多くの関係者から掃除機に関連して事情聴取を行い、それを何とか犯人に結び付けようと必死の捜査を進めているようです。
もう一つ明らかになったことは、兄たちが訴訟の中で遺言書には日付や署名捺印はあるものの、それは「コピー用紙1枚に赤ペンで手書きされたもの」であり、また「保管・発見されたとされる状況が不自然」だと主張している点です。つまり単に形式上の不備を問題にしているのではなく、あくまでもそれ自体が無効だとの主張です。すでに何度かこの欄でも述べたように、遺言書には公証人役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言と、遺言書の全文を自分で自由に書く自筆証書遺言の2種類あります。この場合でも公正証書遺言であればこのような問題はまず起こらなかったと言えます。

このように紀州のドンファン相続問題は、事件の謎の解明を進めている警察の捜査と、兄たちが起こしている訴訟の二つを軸に、渦中の妻と田辺市が関係しながら今後もまだまだ予断を許さない状況が続くと考えられます。はたしてその真実は明かされるのか、あるいは深い謎に包まれたまま終わってしまうのか、その行く末を見守りたいと思います。