紀州のドンファン相続問題のその後

昨年の今頃は大阪や神戸などの関西も台風騒ぎで大変でしたが、今年はそれほどの大きな被害はなさそうな気配です。油断は禁物とはいえ、このまま静かな秋を迎えたいものです。
さて昨年の9月に取り上げた「紀州のドンファンと遺留分」の話が、最近また少し動き出したようなのでその後の展開を追ってみたいと思います。
昨年5月に和歌山県田辺市で紀州のドンファンと呼ばれた野崎さんが自宅で急死し、その遺産は不動産や金融資産などを含めて50億円近いとも言われました。野崎さんには子供がおらず、結婚したばかりの若い妻がいます。体内から覚せい剤反応が出たというその死因を巡る疑惑もさることながら、5年ほど前に〈いごん〉と書かれた自筆証書遺言が見つかり、そこには〈全財産を田辺市にキフする〉との文言があったのです。

その後のいろいろな調べで、主な財産は土地、預貯金、有価証券、投資信託など合わせて26億円余りであることが判明。そこから未返済の貸付金などを差し引くと、約13億円が相続財産として残りました。それにしても大きな金額であることは間違いなく、ここから妻と地元田辺市、さらに野崎さんの兄弟姉妹を巻き込んだ相続騒ぎが始まったのです。
まず問題となるのは遺言書の存在です。それが有効かどうかによって、遺産の配分はまったく変わってきます。ですからそれぞれの事情により、遺言書への立場は大きく異なります。寄付される田辺市には遺言書を拒む理由はなく、また妻には何も書かれていなくとも遺留分を受け取る権利があります。この二者が遺言書を認める立場なのに対し、兄弟姉妹は遺留分の規定がないためそれを認めると何も受け取ることができません。

そこで兄が代表して、この8月に遺言書は無効であるとの申立書を提出して訴訟を起こしました。もし遺言書が無効だとすれば、遺産の相続は妻が3/4、兄弟姉妹が1/4となり、兄弟姉妹も一定額を受取ることができます。逆に有効だとすれば、妻は遺留分を主張すれば田辺市と1/2ずつ分け合うことになります。それなら妻は無効の方が取り分が多いのだから、兄弟姉妹と同じ立場で訴訟に参加すれば良いのではと思われがちです。
しかしそこがこの相続問題の難しいところで、実は妻と野崎さんの兄弟姉妹との関係はきわめて険悪で仲が悪いらしいのです。妻にしてみれば兄弟姉妹との遺産分割協議を行うことは何としても避けたく、たとえ取り分が少し減るとしても田辺市と1/2ずつ分け合う方がスムーズに早く受取れると考えているようです。

ことの真偽は定かではありませんが、野崎さんの兄は「弟は大の役人嫌いだったので田辺市に寄付するなど考えられない。また生前に遺産は愛犬のイブに渡したいと言っていたのに、遺言書で一言も触れていないのはおかしい」などと話しているようです。
このようにいろいろと複雑な人間模様が絡んでくると、いったい何が真実かわからなくなってきます。野崎さんの死因を巡る疑惑に加え、遺言書が有効か無効かの問題、そして地元自治体への全額寄付という異例の遺言内容、そこへさらに愛犬までが登場してくるとなると、これはもうまさに事実は小説よりも奇なりと言うしかないのでしょうか。いずれにしてもまだ当分は騒動が続きそうです。